研修医宿題
降圧薬の使い方
山田 圭吾
【高血圧の診断基準】
従来より世界的に使われている診断基準として、アメリカのJCN(Joint National Committee)基準と、WHO/ISH(International Society of Hypertention)基準がある。以下にJCN の基準と降圧治療指針を示す。
【降圧薬使用の原則】
高圧利尿薬、β-blocker、Ca拮抗薬、α1-blocker、αβ-blocker、ACE-blocker、AT2rec-blockerの中から最適の一剤を選択して治療を開始すること。(JNC より)
【降圧の目標と併用療法】
降圧の目標は原則として正常血圧(140/90mmHg未満)である。糖尿病や腎障害が合併していれば130/85mmHg以下を目標とする。選択した降圧剤の効果が十分でなければ増量するか他剤を加える。3剤併用の場合、1剤は必ず利尿薬とする。
【降圧薬の使い方】
(1)利尿薬
一般に収縮期高血圧によいとされている。老人にも使いやすい。しかしその降圧作用は弱く、増量による効果の増強はあまり認めない。利尿薬はカリウムの排泄性とカリウムの保持性に大別される。副作用としては、カリウム排泄性のサイアザイド系やループ利尿薬では、耐糖能異常の悪化や尿酸値の上昇(痛風のある患者には使用すべきでない)、低カリウム血症などがある。一方カリウム保持性のスピロノラクトンでは、男性では女性化乳房や高カリウム血症などで腎不全患者には使用できない。カリウム値の変化を相殺する目的でカリウム排泄性の利尿薬とカリウム保持性の利尿薬との併用が有効である。また、カリウム排泄性利尿薬によるカリウム値減少を少なくするためにACE阻害薬との併用もよい。
(2)β遮断薬
若年者に適していると同時に、狭心症や心筋梗塞の既往のある患者の予後、症状改善に有効である。しかし、心機能抑制作用があることにより、心疾患がある場合は使用前の心機能の評価を行うことが望ましい。頻脈性不整脈の治療としても使われる。一方、気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患、I度・II度房室ブロック、末梢血管疾患のある患者には禁忌である。糖尿病や脂質代謝異常のある患者には、その悪化を招くことがあり、他剤での治療可能なときには使用しないほうがよい。
(3)ACE阻害薬
左心機能不全や心筋梗塞の既往、糖尿病性腎症のある患者に適している。ただし腎機能が一定以上あれば一般に使うべきではなく、クレアチニン値が2~3mg/dlの時も腎機能の推移に十分注意が必要である。一側の腎動脈狭窄による腎性高血圧症には少量でも有効である。一方、両側の腎動脈狭窄や片腎の腎動脈狭窄には禁忌である。(急速な腎不全を起こす)妊娠患者にも禁忌である。咳はしばしば見られる副作用で、中止せざるを得ないこともある。
(4)Ca拮抗薬
老人にも使いやすく、日本では降圧薬として最も使われている。抗狭心症作用を持ち、末梢血管拡張作用を有する。カルシウム拮抗薬は心拍数を増加させるジヒドロピリジン系〔ニフェジピン(アダラート)やアムロジン(ノルバスク)など〕と心拍数を減少させる非ジヒドロピリジン系〔ベラパミル(ワソラン)やジルチアゼム(ヘルベッサー)〕とに大別される。ジヒドロピリジン系は心臓の収縮力抑制作用がなく、心不全患者にも使いやすい。ただ短時間作用型のジヒドロピリジン系、つまりニフェジピンを心筋梗塞や狭心症の既往のある患者に使用することでかえって生命予後が悪くなるとの報告もあり、長時間作用型を使用するべきである。一方、非ジヒドロピリジン系は心臓の収縮力に対する抑制があり心不全患者には使うべきではない。また刺激伝導系を抑制する作用があるため、?度・?度房室ブロックのある患者や徐脈性不整脈のある患者には使用しない。他に顔面紅潮やむくみ、ジヒドロピリジン系では動機などの副作用に注意が必要である。
(5)α遮断薬
前立腺肥大や耐糖能異常、脂質異常の場合に使うことが多い。第一選択薬の一つとなっているが、最近発表された the Antihypertensive and lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial (ALLHAT)で、α遮断薬治療郡で利尿薬に比べ、冠動脈イベントおよび心不全を多く起こしたことによりこの比較試験が途中中止となった。今後どのような使い方がよいのか他の試験などの結果を待たなければならないが、既に様々な降圧薬が使える状況下で敢えて積極的に使うことはないと考える。また一般的副作用として起立性低血圧があり、特に初回投与時に失神を起こすことがあり、少量から開始すべきである。
(6)AT2受容体遮断薬
第一選択薬の中で最も新しい薬である。ACE阻害薬と同様にアンジオテンシンを抑制することによる降圧作用を持つ。ACE阻害薬でしばしば問題になる咳の副作用はほとんどない。適応や禁忌はACE阻害薬とほぼ同様で、心不全患者や心筋梗塞後の使用、また一時予防薬としての好意的データがでてきつつある。ただし長期間の人体への使用データは基本的にない。
September 10, 2002
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