研修医宿題
PaO2と酸素飽和度
本間さちゑ 山田圭吾
PaO2は動脈血液中の酸素分圧を表しており、呼吸機能(ガス交換)の重要な指標である。酸素飽和度は、血液中のヘモグロビンの何%が酸素と結合しているかを表している。酸素飽和度はPaO2と相関があり、PaO2が高ければ酸素飽和度も高くなる。酸素解離曲線からもわかるように、PaO2が高い時点ではPaO2が、PaO2が低くなった時点ではSaO2の方が変化を識別しやすい。
PO2に影響を与えている3因子は、(1)環境、(2)肺胞換気量、(3)肺胞でのガス交換である。PCO2は肺胞換気量が重要であったが、PO2ではさらに大気圧や吸入酸素濃度(FiO2)などの環境、換気/血流比やガス拡散能、短絡率などの肺胞でのガス交換が影響因子として加わる。
O2は大気中では大気圧760Torrに21%含まれている。さらに肺に入ると水蒸気が飽和するため(水蒸気にも分圧がある)、PO2は(760-47)×0.21=約150Torrに低下する。そして肺胞内では排泄されるCO2があるため低下し、換気/血流比やシャントによって血液中のPO2はもっと少なくなる。細胞内ミトコンドリアで使われる段階ではPO2は数Torrになっている。
つまり、PaO2低値の場合には、(1)PAO2が低いガス吸入(高地や低濃度酸素吸入)、(2)肺胞低換気、(3)A-aDO2の増大の3つを考える。ここで重要なのは、PAO2が低いガス吸入の場合にはPCO2は上昇するので鑑別診断になる
シャントや局所的にVA/Qの低い細胞がある場合には、動脈血PO2に著しい影響が出る。ヘモグロビンの酸素解離曲線は直線ではなく、S字状であるためPO2が70~80mmHgより低くなるとSO2は著しく低下する。
例えば、人間はSO2が90を切ると激しい呼吸苦を来すが、このときのPO2は図より60mmHgであることがわかる(この値は挿管適応の数値であることを銘記されたい)。
また人間の静脈血のSO2は約60といわれるが、このときのPO2は約30mmHgである。この中間地点SO2が75の時のPO2は40であるが、この時点では既に人間は摂取酸素量の半分しか有効利用されていない状態であり、critical point(危機的状態)にあることを知られたい。また図より、ベッドサイドにおいて患者さんのSO2だけを測定することで、だいたいのPaO2、A-aDO2、RIの値を推測できることも臨床をスピーディーに行う上で重要である。
VA/Q比の小さい細胞ではかなりPO2が低下するのでこの部分を流れる血液のSO2は著しく低下しこれらが合流した血液全体(動脈血)のSO2とPO2に影響を及ぼす。正常人では心拍出量の1~2%の静脈血混合があるために、動脈血のPO2は4~8mmHg程度だけ肺胞PO2(または終末呼気PO2)より低くなる。先天性心疾患による右→左シャントの形成、肺気腫などの際の気管支静脈血流増加、無気肺、肺水腫、肺塞栓などによりVA/Qが低下すると静脈血混合割合が増加する。なお、PaCO2への影響が少ないのは、CO2が拡散しやすいこと、そもそも混合静脈血と肺胞のPCO2差はO2に比べてはるかに低いせいである。また、CO2解離曲線は実際の範囲ではほぼ直線であるためにO2の場合とは異なる。
PaO2 | SaO2 | AaDO2 | RI |
0 |
10 | 13 | 89.73 | 8.973 |
20 | 36 | 79.73 | 3.9865 |
30 | 58 | 69.73 | 2.324333 |
40 | 75 | 59.73 | 1.49325 |
50 | 84 | 49.73 | 0.9946 |
60 |
90 |
39.73 |
0.662167 |
70 | 29.73 | 0.424714 |
80 | 95 | 19.73 | 0.246625 |
90 | 9.73 | 0.108111 |
100 | 97 | -0.27 | -0.0027 |
July 30, 2002
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