研修医宿題
輸液の基礎知識
田中 良一
体液の電解質組成
細胞内液はK+やHPO4-イオンが多い。細胞外液ではNa+、Cl-イオンが主な電解質である。体液の電解質組成が著しく異なるのは、細胞膜が電解質の移動を制御しているためである。細胞膜は水は自由に通すが、電解質などのほとんどの物質の出入りを制御する。また、毛細血管壁は、水、電解質、アミノ酸のような低分子物質は自由に通すが、血漿蛋白(アルブミン)のような高分子物質は通さない。
ナトリウムとその働き
約55%が細胞外液中に存在している。体液の浸透圧、細胞外液量の調節に最も重要な働きをしている。血漿浸透圧の90%はナトリウムによって規定されており、ナトリウムの濃度に応じて細胞外液量を変化させる。1日10-15g程度の食塩を摂取している。食事のできない人には一日量として3-6g→50-100mEqに設定されている。1gの食塩はNa+に換算すると17mEqである。
カリウムとその働き
細胞内の主要電解質であり、神経、筋肉の興奮、伝達、収縮などに重要な働きをしている。カリウムは、約90%が細胞内液中に存在し、細胞外液中にはわずか2%。その為、血清カリウム値だけから体内のカリウム濃度を推測することはできない。カリウムは1日に約40mEq必要である。カリウムは芋、バナナ、かぼちゃ、ニンジンなどに多く含まれる。1gのKCl=K+13mEq
生理食塩水
0.9%の食塩水である。血漿中の電解質のうち陽イオンをすべてNaに、陰イオンをすべてClに置き換えた組成である。生理食塩水500mlを一本投与すると、500×0.9×0.01×17=77mEqのNaが補給できることになる。
乳酸リンゲル液
血漿に最もよく似た電解質組成を有する輸液で、Na, K, Ca, Clと体内でHCO3-と同じアルカリ作用を発揮する、乳酸イオンを含有している。リンゲル液にはCaが入っており、重炭酸イオンを含むと炭酸カルシウムを生じてしまう為、その代わり乳酸塩(酢酸)を配合している。
維持輸液の成り立ち
1号から4号液は基本的に生理食塩水と5%ブドウ糖液の配合割合を変えることにより作られる。1号液→1/2生食 2号液→1/3生食 3号液→1/4生食 4号液→1/5生食といった具合である。
術中輸液の考え方
術中は、麻酔導入による末梢血管拡張作用に伴う循環血液量の減少、third spaceへの体液移動、手術に伴う出血(10%以下の出血)などの細胞外液の喪失に対して、細胞外液補充液を中心とした輸液が使用される。 third space→手術などで局所に浮腫が生じ、そこに貯留した細胞外液は機能しない。このような機能しない細胞外液が貯まる区分をthird spaceと呼ぶ。
血漿増量剤
血漿増量剤は分子量が万単位の高分子物質を含む輸液剤であり、代用血漿剤とも呼ばれている。点滴投与後、アルブミンなどの血漿蛋白と同様に血管内にのみ分布し、血管内の水分を保持する。 デキストラン40はブドウ糖分子が200個以上結合したものである。平均分子量は約4万で、デキストランの中では比較的小さい為、低分子デキストランと呼ばれている。
不感蒸泄と発汗
不感蒸泄量は約15ml/kg/dayである。体温が1℃上昇ごとに15%、気温が30℃から1℃上昇するごとに15-20%増加するといわれる。発汗は不感蒸泄ではなく、有感蒸泄であり多いときで2L~3Lも喪失する。
June 15, 2005
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